「ゆとりですがなにか」というドラマで僕は、主人公・坂間正和(岡田将生)の兄・宗貴を演じさせていただいた。三兄妹の末っ子ゆとり(島崎遥香)、母親の和代(中田喜子)、宗貴の嫁・みどり(青木さやか)という家族である。僕にとってはみな初対面で、喜子さんとさやかさんは衣装合わせでチラッとご挨拶した程度、マサキとはるかちゃんは顔合わせで堅苦しく挨拶しただけでもう次はクランクインの日。「坂間家・表」車に乗り込む兄妹と彼らを見送る兄嫁のシーン。日常の何気ない描写って意外にむずかしいですよね。ろくに会話したこともない他人同士が何年も生活をともにしてきた家族をいきなり演じるなんて、いつも思うことですが僕ら俳優はヘンなことしてるよなあと。テイクを重ねて水田監督の「家族に見えるなあ」という笑顔で、坂間家はスタートしました。数か月のちには「はい解散!」と跡形なく消えていくこの疑似ファミリーは、そのときさびしくて別れがたくなればグッジョブでしょうか。オールアップの日マサキはその数カット前からうるうるし始め「あ…目にゴミが…すみません」と泣かせる言い訳していたようだし、さやかさんは普通にぽろぽろ泣いてたから「ありがとうー」って言ったら余計に涙してたし、さまざまプライベートについてよく話し込んでいた喜子さんとはるかちゃんの二人はもう本当の親子のようで長男としては微笑ましい限りです。
とても好きなシーンがあります。第七話のシーン37「坂間家・居間」、正和の恋人・茜(安藤サクラ)が実家から父・重蔵(辻萬長)を連れて坂間家に挨拶にくる場面。恋人と言ってもじつは既に破局しているのだが、それを知らない父は結納の品を手に正和の気持ちを問いただす。8ページほどのこの長いシーンは、マサキとサクラさんの演技が僕の予想よりはるかに熱く、テストから思わずこちらも込み上げてしまった。ただ僕の斜め前で正座したさやかさんの位置がちょうど敷居の上で、丸々長回しする時間に足が耐えられずバレないようちょびっとずつ正座の位置をずらそうとしているのが目に入った僕は可笑しくて何度も吹きそうになった。このシーンの本番テイク、今回で一番緊張しました。なんせもっとも空気が張り詰めた恋人の山場を、時々台詞のある自分が絶対に間違えてはいけないというプレッシャーと、テストのさやかさんの正座ごにょごにょの残像から絶対に笑ってはいけないという、そのギャップがたまらなく文字通り手に汗でしたが、俳優ってほんとすごいんだなあ…本番の芝居はテストよりはるかにいいんですよね。誰もミスすることなく一発でOK。カメラポジション変更のため俳優がいったん現場を離れると、みなしばらく無言で息を吐いた。僕が「あー緊張したー」と言うと、隣に座ったさやかさんがポツリと「芝居って、いいですね」としみじみ。そう、そういうことですよね。だから芝居っておもしろいです。
思えばクランクインの日まだ二月の酒蔵は芯から底冷えしたが、風で舞う桜が画面に映り込まないよう懸命にスタッフが防いだ時期を経て、最後に訪れたときはみな半袖半パンでした。この作品に関わるすべてのスタッフ・キャストの皆さま、ありがとうございました。そしてドラマをご覧いただいた皆さま、ありがとうございます。ゆとり世代もそうでない我々も、一緒にまた仕事がんばっていきましょう。
日テレドラマ『ゆとりですがなにか』
二塁手 高橋洋 ブログ
http://blog.livedoor.jp/yotakahashi31/archives/47801185.html
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