——〈grounds〉はインラインのアイテムを新しく生み出しつつ、続々とコラボレーションを発表しています。キーとなるのはどういったところにあるのでしょうか。
坂部:〈grounds〉でやりたいことは、僕自身が特徴的なデザインを続けるのではなく、プロダクトとして広範囲にみてもらいたい、いろいろな人と共有できるものを作っていきたいというのが根幹にあるんです。ファッションに関係する人たちとだけコラボレーションするという考えも全くありません。例えば、世界的なデザイナーであるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクとやる一方で、ぱるると、いろいろな話をする過程で一緒にやろうともなる。つまり、コラボレーターの人選にルールはなくて、かなり多角的なのは、人生のなかで人と出会うことと同じような感覚でやっているからなのかもしれない。全然違うタイプの人と話すことで発見があるのと同じ。そういうスムーズな感じでコラボレーションを捉えていますね。
——人との出会いや対話がこれからの〈grounds〉の展開を加速させていくのですね。
坂部:うん。ブランディング本位でストラテジーを決める時代ではないと思っています。本人の良さを知ること、本人と交わることそのものがコラボレーションする上でもっとも面白い点ですから。むしろ、今後はどのジャンルでもそうなっていくんじゃないですかね。
——パーソナルな話に移りますが、島崎さんは今、アジアに関心が向いているとか。
島崎:中国に行ってみたいと思っていますね。理由はいろいろとあるんですけど、その一つは、アジアにファンの方がいっぱいいることですね。これまで、アジアの方が日本に会いに来てくれるというかたちでしか活動してこなかったことを考えると、11年間、熱い思いで日本に来てくれていたけれど自分は何もできていない……だったら、私が直接行っちゃえばいいじゃんって思い立ったんです。なかには日本に来られない方もいるだろうし、自分が現地に行って、何か活動できたら今までにないことができる可能性もあるし、もっと楽しくなるだろうなって。ファン孝行をしたいですし。早く行きたいです!
坂部:すごく良いね。アジアのファッションの流れでいうと、中国が中心になりながら明らかにのびているんですね。ただ、その中でアイコニックな存在として、アジア、ひいては世界全体に影響を与えている人って決して多くない。特に、日本人の良さを持ってアジアで目立つ人っていうのがまだ出てきてない気がしているんです。例えば、K-POPはかなりグローバルの基準に合わせたんですよ。良し悪しの話ではなく、彼らはアメリカ人やヨーロッパ人がわかりやすいようなルールを理解した上で、ダンスやスタイルの部分を寄せている印象があります。その一方、日本人のアイドル像は、ピュアな部分での未熟さみたいなのを内包しながら独特のカルチャーを形成してきた。ジャニーズもそのひとつだと思うんですけど、完成してないからこその不安定な良さは、さまざまな日本のカルチャーにあると考えています。そうした、他にはない日本らしさと連動することで、本質的なものをアジアや世界に打ち出せるんじゃないかと思うんです。ぱるるは、もともと日本でアイドル活動をして、いま新しい挑戦もしている。ファッションと繋がりあうことで生まれる可能性を、僕はすごく感じていますね。
——島崎さんの個性を起点にして、欧米に迎合しないかたちで日本のカルチャーを発信していくことにもなる。
坂部:まさにそうですね。漫画やゲーム、あるいは、アイドルは、日本の中ではオタクと言われるけど、海外からはクリエイションとしてみられている側面があると思うんですよ。2000年代に入ったころにミラノの地下鉄で『ワンピース』の本が売られるくらい、一気に一般化したのを覚えているけど、それもはじめはそんなに流行ってなかった。日本のアイドル文化も、そもそも人が憧れたり、心を動かされる存在として独自に発展したことがあるから、まだ世界中に広く知られていないだけでクリエイションとして一気に火が付く可能性は大いにあると思います。それに加えて、やっぱり大切なのは、そうした文化を体現する人間自体に魅力があるということですよね。
島崎:WeiboやYouTubeをやっていると日本の文化を好きな人達がいっぱいいるんだと実感するんです。ちょっと前に、きゃりー(ぱみゅぱみゅ)ちゃんが「可愛い」っていう言葉を外国の人たちに広げたと思うんですけど、実はもっと日本のいろいろなものに興味が向かっているんですよね。お茶でも何でもいいんですけど。本当に日本が好きな人たちがこんなに多いんだというのも、SNSが大きくなるまで私は全然知らなかった。以前、タイに番組の撮影で行った時、現地の方に話しかけてもらえたことがあったんです。まさか自分がタイの方から知ってもらえているなんて思ってもいなかったので驚いたのですが、日本のアイドルを好きな人達がアジアにたくさんいるんだというのがすごく不思議な感覚になったんです。そのことが単純に嬉しかったし、そういう経験もあって、私自身が、もっとそれぞれの国に行くことで新しいことができるんじゃないかなと思っているんです。
坂部:グローバルに合わせるのではなくて、癖のある方が絶対に面白いからね。何ごとにも自分の意見をちゃんと持っていて、例えば、水色が好きと言った後に黒も好きと言える、ぱるるのような人がやっぱり魅力的なんですよ。SNSの流れもそうですけど、一般的には一貫性があるものがブランディングしやすい。でも、空気を読み過ぎたらつまらなくなるように、そういう分かりやすさに世間は飽きてきている現状はあると思う。ぱるるみたいに、自分の考えを突然言われるとみんなドキッとする。でも、その方が、個人と話してる感じもするし、しっかり記憶に残る。意識してやってないからこそやれる部分もあると思うけど(笑)。
島崎:ありがとうございます(笑)。ファッションのこととなると難しいけど、話す言葉がいつも素敵だから、三樹郎さんの思考回路はすごい気になります。私は自分のことを、日本人だけど日本人じゃないんじゃないかなって小学生くらいから思っていたんです。「日本で生まれた外国人」みたいな感覚。だけど、三樹郎さんの言葉を聞いていると、日本人になれた気分になる(笑)。この言葉も、たぶん伝わらないじゃないですか。勝手なイメージですけど、海外の方って「私はこう思います」「あっ、あなたはそういうスタイルなんだね、でも私はこう思う」というやりとりをする。三樹郎さんもそうだから、かっこいいなって。日本だと「私はこう思いました」「いやそれは違うよ」って話になったりするじゃないですか。
坂部:それは、すごく分かる。日本は、小学校や中学校のクラスで、間違ったことをやるとすごく恥ずかしい。その恥ずかしい思いを押し付けられて、みんなと合わせなくちゃいけないと染み込ませられているから、元々あった個性を消した方が褒められたりする。でも、大人になると個性がないことに悩む……。人と人とがズレていることを指摘できても、その意味がわからない。ただ、デザイナーがクリエーションする上で、個性を見失うことは絶対にダメなんですよ。だから、普通でなくてはいけないという強迫観念みたいなものに馴染みすぎていない方が感覚的にも好きなんです。そういう意味で、ぱるるは、そういうものに馴染みすぎなかったのかもしれない。
島崎:そうですね。だから、AKB48で良かったなって思うんです。AKB48は個性がないと埋もれてしまう。自分に絶対的に個性があるとは思ってないけれど、ここが変で面白いよねって言われたもん勝ちみたいなところもあって、それが、秋元さんも面白いと思ってくれた私なんだと思う。人がマイナスとすることが良しとされる世界だったから、受け入れてもらえたっていう感覚があったんです。
Photography : Yuichi Ihara
Hair & Make : Hitomi Mitsuno
Text : Tatsuya Yamaguchi
https://grounds-fw.com/blogs/news/haruka-shimazaki02
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