先週、「ひよっこ」にぱるること島崎遥香が登場しました。
ぱるるの登場のその意味と展開を、朝ドラ論「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)で注目のフリーライター、木俣冬さんが予想します!
善意に満ち溢れているドラマをむず痒く思う風潮も
昨今のエンターテインメントの流行りのひとつに、イヤミスがある。「告白」や「少女」など数多く映像化されている湊かなえの作品に代表される、いやな気持ちになるミステリーである。加えて、罪悪感なく不倫するヒロインが許せないと視聴者の議論は白熱しながらも、視聴率は次第に上昇していったドラマ「あなたのことはそれほどでも」(TBS)も話題になった。それらに対して、あくまでも性善説を唱えるようなドラマがあることをご存知であろうか。朝ドラこと連続テレビ小説「ひよっこ」(NHK)だ。
「ひよっこ」は、高度成長期の時代、高校卒業と同時に、茨城から東京に出稼ぎにやってきたヒロインみね子(有村架純)が、様々な出会いと経験をしながら生きていく日々を描いている。着目すべきは、現在、70話(全話の半分弱)まで来て、ひとりも悪い人が出て来ないことだ。いや、それよりも、心が洗われるような心優しい行為の数々が描かれていることのほうが重要だ。例えば、みね子が上京し、工場に住み込みで働くことになった時、工場や寮にひとりくらい意地悪な先輩がいてもおかしくない。ドラマの場合、ここでいじめに合うのは定番とも言える。だが、全員善人で、仕事の出来ない人をかばい励まし、笑顔で毎日を過ごそうとする。また、行方不明になったみね子の父(沢村一樹)がたまたま立ち寄った洋食屋・すずふり亭のオーナーとシェフ(宮本信子、佐々木蔵之介)が、ほとんど見知らぬみね子に対して、ひたすら親身になってくれる。
彼らが、工場が倒産し困っているみね子を雇ってくれることになって、現在、店の裏にあるアパートでの新生活がはじまったところだが、その住人もそろいもそろっていい人ぞろいだった。みね子の恋の相手ではないかと目される大学生(竹内涼真)はちょっと理屈っぽく、最初のうちはヒロインとぶつかり合うかと思わせて(それもドラマの定番)、早くも、いい人っぷりを見せはじめている。女性住人(シシド・カフカ)も一見こわそうだが、意外とみね子を心配してくれている。大家さん(白石加代子)もやや嫌味だが、決定的に他人を貶めるわけではなく、かなり愛嬌がある。そんなふうだから、毎朝、とても気楽に観ることができる。
ただ、子どもの情操教育用絵本や、口当たりの良い生き方本のように、善意に満ち溢れていることをむず痒く思う視聴者もいるようで、それが、ここ最近の朝ドラの中では視聴率がやや低い原因の一端になっている可能性もある。
「ひよっこ」は、高度成長期の時代、高校卒業と同時に、茨城から東京に出稼ぎにやってきたヒロインみね子(有村架純)が、様々な出会いと経験をしながら生きていく日々を描いている。着目すべきは、現在、70話(全話の半分弱)まで来て、ひとりも悪い人が出て来ないことだ。いや、それよりも、心が洗われるような心優しい行為の数々が描かれていることのほうが重要だ。例えば、みね子が上京し、工場に住み込みで働くことになった時、工場や寮にひとりくらい意地悪な先輩がいてもおかしくない。ドラマの場合、ここでいじめに合うのは定番とも言える。だが、全員善人で、仕事の出来ない人をかばい励まし、笑顔で毎日を過ごそうとする。また、行方不明になったみね子の父(沢村一樹)がたまたま立ち寄った洋食屋・すずふり亭のオーナーとシェフ(宮本信子、佐々木蔵之介)が、ほとんど見知らぬみね子に対して、ひたすら親身になってくれる。
彼らが、工場が倒産し困っているみね子を雇ってくれることになって、現在、店の裏にあるアパートでの新生活がはじまったところだが、その住人もそろいもそろっていい人ぞろいだった。みね子の恋の相手ではないかと目される大学生(竹内涼真)はちょっと理屈っぽく、最初のうちはヒロインとぶつかり合うかと思わせて(それもドラマの定番)、早くも、いい人っぷりを見せはじめている。女性住人(シシド・カフカ)も一見こわそうだが、意外とみね子を心配してくれている。大家さん(白石加代子)もやや嫌味だが、決定的に他人を貶めるわけではなく、かなり愛嬌がある。そんなふうだから、毎朝、とても気楽に観ることができる。
ただ、子どもの情操教育用絵本や、口当たりの良い生き方本のように、善意に満ち溢れていることをむず痒く思う視聴者もいるようで、それが、ここ最近の朝ドラの中では視聴率がやや低い原因の一端になっている可能性もある。
ぱるるの塩対応がドラマを深いものにする!?
このままずっと善人のパラダイスを描くドラマになるかと思っていたところへ、AKB48でファンに塩対応してきたぱるること島崎遥香が、すずふり亭のシェフの娘・由香として登場した。彼女がヒール(プロレスの悪役レスラー)となって楽園を混乱に陥れるのでは? との期待どおり、70話で初登場した時、かなりの感じ悪さだった。71話では、彼女のことを、みね子が「悪魔」と呼ぶほどだ。これはいい。朝ドラでは、姑や小姑やライバルが、ヒロインをいじめ抜くエピソードが定番であり、好まれてもいる。さあ、いよいよ、有村架純とぱるるのバトル開始か! と思ったところ71話で、すでに、彼女は実は、弱い人間をほうっておけない性分であることが、他者から明かされてしまったのだ(登場の翌日に!)。
さらに、その週末には、なぜ彼女が屈折してしまったか、悲しい理由も明かされてしまった。
肩透かしを食らわせられた気持ちが否めないが、今後、再登場する際には、おそらく、しばらくは、由香はいやな女を通すであろう。むしろ、じつはいい人であることがあらかじめわかっていれば、視聴者に嫌われないという作戦ではないだろうか。そうすれば、視聴者は、ぱるるが、まさにヒールとして、じつに巧みにいやな女あるあるを演じることを、ストレスなく楽しめるだろう。実際、今、放送中のドラマ10「ブランケットキャッツ」(NHK)では、ニュートラルな女の子を演じていて、演技の幅があることを感じさせる。
脚本家・岡田惠和は、ミステリーでよく使われる、最初に犯行現場と犯人を明かしておく倒叙法を、今回、採用したのではないか。善だった人間がいかに感じの悪い人間に変貌するかを描くことで、善人と悪人を区別して描くよりも、ドラマが深いものになる可能性がある。雛鳥たちが、ニワトリになるか白鳥になるか鴉になるか、見守っていきたい。
さらに、その週末には、なぜ彼女が屈折してしまったか、悲しい理由も明かされてしまった。
肩透かしを食らわせられた気持ちが否めないが、今後、再登場する際には、おそらく、しばらくは、由香はいやな女を通すであろう。むしろ、じつはいい人であることがあらかじめわかっていれば、視聴者に嫌われないという作戦ではないだろうか。そうすれば、視聴者は、ぱるるが、まさにヒールとして、じつに巧みにいやな女あるあるを演じることを、ストレスなく楽しめるだろう。実際、今、放送中のドラマ10「ブランケットキャッツ」(NHK)では、ニュートラルな女の子を演じていて、演技の幅があることを感じさせる。
脚本家・岡田惠和は、ミステリーでよく使われる、最初に犯行現場と犯人を明かしておく倒叙法を、今回、採用したのではないか。善だった人間がいかに感じの悪い人間に変貌するかを描くことで、善人と悪人を区別して描くよりも、ドラマが深いものになる可能性がある。雛鳥たちが、ニワトリになるか白鳥になるか鴉になるか、見守っていきたい。
文=木俣冬/Avanti Press
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